2026年9月18日に Friday Facts #446「An ARM and a Frame」 が公開されました。担当は raiguard と Sanqui。タイトルは「ARM(アーキテクチャ)」と「(Steam)Frame」をかけた言葉遊びで、長年待ち望まれていた ARM64 Linux 対応と、Valve の新型VRヘッドセット「Steam Frame」への移植がテーマです。主要トピックを日本語でまとめます。

Steam Frame(VRヘッドセット)で Factorio が動く

担当の raiguard は元々、セットアップの煩雑さから VR には乗り気ではなかったそうです。しかし外部センサー(ライトハウス)が不要な「インサイドアウト方式」のトラッキングが主流になったことで、単体で完結するVRのハードルが大きく下がりました。中でも Linux ベースでオープンな設計、プライバシーへの配慮を重視した Valve の「Steam Frame」に惹かれたとのこと。この移植がすべての出発点になりました。

ARM64 へのクロスコンパイル

Steam Frame は ARM64 アーキテクチャのため、x86 向けのビルドをそのままでは動かせません。開発マシン上で ARM64 向けバイナリを生成する「クロスコンパイル」が必要になりました。主なポイントは次の通りです。

  • コンパイラとリンカに正しいターゲット(target triple)を指定する
  • 対象アーキテクチャのシステムファイル一式(sysroot)を用意する
  • クロスコンパイルに対応したリンカ(Mold リンカ)を使う

当初は Raspberry Pi からシステムファイルを抜き出して使っていましたが、より持続的な方法として debootstrap を使って ARM64 版 Debian のファイルを生成する方式へ切り替えました。これにより開発環境やビルドサーバでも安定して再現できるようになったとのこと。複雑なビルドシステムを持つ OpenSSL には苦労したものの、適切なフラグの組み合わせを見つけて解決。最終的に just create-sysroot arm64 を実行してから just arch=arm64 build と打つだけ、というシンプルな手順にまとまりました。

開発キットと実機での手応え

Valve から開発キットが2台提供され、その軽さと装着感の良さに感心したそうです。実機対応には steamrt(Steam Runtime)を ARM64 対応の 4.0 へ更新し、Steamworks SDK も更新する必要がありました。初めて起動に成功したのは2026年2月とのことです。

パフォーマンスとプレイ体験

720p・Steam Deck 相当のグラフィック設定で、ほとんどの場面で 60 FPS を維持。注目すべきは、ネイティブ ARM64 ビルドが FEX(x86 命令の変換)経由よりも 約11%高速 だった点です。エミュレーションではなくネイティブ対応した意義がはっきり出ています。

Factorio のような2Dゲームには専用のVR機能はありませんが、ヘッドセット側のマウス操作(レーザーマウス)にきちんと反応します。Steam コントローラや従来の入力機器を接続してのプレイも可能です。最終的に Factorio は Steam Frame の認証(Certification) を取得。インフラ側の制約は、両アーキテクチャのバイナリを同梱しアーキテクチャを自動判別するスクリプトで回避し、ARM64 Linux ビルドは実験版(experimental)ブランチのプレイヤーへ配信されました。

Raspberry Pi でも動く(サーバ用途)

Raspberry Pi では OpenGL の制約からグラフィック付きのプレイはできませんが、サーバ(ホスト)用途は安定して動作します。マルチプレイのテストでも desync(同期ずれ)は発生しませんでした。こちらではネイティブ ARM64 ビルドが box64 経由よりも 約28%高速 という結果に。低消費電力の常時稼働サーバとして魅力的です。

Asahi Linux(ARM Mac)でも動く

ARM ベースの MacBook 向け Linux である Asahi Linux でも、いわば「うれしい副産物」として Factorio が動作しました。ここではネイティブ ARM64 版が FEX 経由よりも 約35%高速 と、今回テストしたプラットフォームの中で最も大きな性能向上を記録しています。

ついに ARM64 Linux 版が正式配布へ

担当が Sanqui に交代。ARM64 対応は11年以上前からプレイヤーに要望されてきたものでした。実現を阻んでいたのはハードウェア調達の難しさで、Ampere Altra サーバは入手できず、ARM64 の VPS も在庫切れが続いていたとのこと。最終的にクロスコンパイルと Raspberry Pi 5 での検証が突破口になりました。配布形態は次の通りです。

  • スタンドアロン版(公式サイト):ARM64 Linux 版を配布。ヘッドレス版も含む
  • Steam 版:実験版(experimental)ブランチのバージョン2.1で利用可能

まとめ

今回のFFFは、Steam Frame という新しいVRハードウェアへの挑戦をきっかけに、長年の宿願だった ARM64 Linux 対応が一気に実を結んだという内容でした。Steam Frame、Raspberry Pi、Asahi Linux のいずれでもネイティブ ARM64 ビルドがエミュレーションを明確に上回る(11%〜35%高速)という結果は、地道な移植作業の価値をよく示しています。ARM な MacBook や省電力サーバで Factorio を動かしたい人にとっては待望のアップデートと言えそうです。

原文:Factorio公式ブログ – Friday Facts #446「An ARM and a Frame」(2026年9月18日)